第3回 共通テストで求められることは何か?・③現代文(小説)
前回は、共通テスト初年度における評論の問題を取り上げて、センター試験から問われていることは変わっていないことについて説明しました。引き続き今回は、小説の問題を見たいと思います。
試行調査では、視点と主題の異なる2つの作品を読み比べる問題や、同一の書き手による詩と随筆を組みわせた問題など、従来のセンター小説とはまったく異なるものが出題されましたが、結局、共通テストでは、最終問題に作品を論評した文章が用意された以外は、小説における登場人物の心情の読み取りが求められるという、きわめてオーソドックスな出題でした。
たとえば、次の問題をご覧ください。
傍線部A「擽ぐられるような思」とあるが、それはどのような気持ちか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 自分たちの結婚に際して羽織を新調したと思い込んで発言している妻に対する、笑い出したいような気持ち。
② 上等な羽織を持っていることを自慢に思いつつ、妻に事実を知られた場合を想像して、不安になっている気持ち。
③ 妻に羽織をほめられたうれしさと、本当のことを告げていない後ろめたさとが入り混じった、落ち着かない気持ち。
④ 妻が自分の服装に関心を寄せてくれることをうれしく感じつつも、羽織だけほめることを物足りなく思う気持ち。
⑤ 羽織はW君からもらったものだと妻に打ち明けてみたい衝動と、自分を侮っている妻への不満とがせめぎ合う気持ち。
動詞の「擽(くすぐ)る」を形容詞化した「くすぐったい」は、くすぐられてなんだか落ち着かない、気恥ずかしくてむずむずした感じを表わしますね。傍線部Aは、私が妻から羽織を褒められた場面にあります。「ほんとにいい羽織ですこと」などと褒められるのはもちろん嬉しい。しかし、その羽織はW君からもらったもので、そのことを妻には告げていませんでした。だから、褒められてもくすぐったい、そわそわした感じがしたのでした。
選択肢を見ると、「擽られるような」という比喩表現の意味を的確に説明しているのは、③の「落ち着かない」しかありません。また、「うれしさ」「後ろめたさ」といま見たアンビバレント(両義的)な心情が述べられています。よって③が正解です。
センター小説では、傍線部の言葉(特に比喩表現)の言い換えを求める問題は頻出でした。また、登場人物のアンビバレントな心情は、必ずと言ってよいほど解答に絡みました。本問は、そうした定番を踏まえた問題だったのです。
ですから、小説も評論と同じく、センター試験の過去問で力をつけていくのが確実と言えます。(ただし、随筆や詩が出題される可能性はゼロではありませんので、試行調査の問題に必ず目を通しておいてください)
次回は、古文・漢文の問題を見ていきましょう。