第5回 共通テストで求められることは何か?・⑤他科目でも求められる読解力
前回まで、今年から始まった共通テストについて、従来のセンター試験を踏襲した基礎力重視型の問題を見てきました。「基本に忠実」であるということは何も変わっていませんので、センター過去問の演習を通じて基礎力の強化に努めてください。
しかし一方で、共通テストでは従来のセンター試験には見られなかった新傾向の問題も出題されました。合格点を取るには、こうした問題への対策も必要です。そこで、今回からは、新傾向の問題で何が問われているのか・何をすべきかについて、実際の問題を見ながら解説したいと思います。
今回取り上げるのは倫理の問題です。倫理をはじめ地歴・公民の科目でも、従来型の問題と新傾向の問題がバランスよく出題されていました。新傾向の問題として特筆すべきは、資料文を与え、その内容を踏まえて答えさせる問題です。地歴・公民でも国語の読解力が求められるようになった。このことは肝に銘じてください。
では問題をご覧ください。
次の文章は、メルロ=ポンティが、人間の身体は物質としての身体の範囲と異なることがあるとし、道具によって身体が延長される場合について述べているものである。文章中の下線部に相当する具体的な事例として適当でないものを、下の①~④のうちから一つ選べ。
杖が身近な道具となってしまうと、その人にとって触覚的対象の世界は遠くから始まるようになり、つまり、手の表皮まできてはじめて始まるのではなく、杖の先端までくればすでに始まることになるわけだ。(中略)杖はもはや盲人の知覚する対象ではなくて、盲人がそれでもって知覚する道具である。それは身体の付属物であり、身体的総合の延長なのである。 (メルロ=ポンティ『知覚の現象学』)
① 自動制御の工作機械によって、人間の手ではできない微細な加工ができる。
② 電子顕微鏡を通して、原子や分子の構造を見ることができる。
③ 砂利道を歩くと、靴をはいていても、小石を踏みしめている感じがする。
④ テレビ電話のおかげで、顔をつきあわせての議論をすることができる。
(試行調査より)
目の不自由な人は、杖を頼りに歩きます。そのとき、杖と身体とは一体化し、杖で地面を突っつく感覚は、手で直接地面を触るのと同じ感覚だと言えるでしょう。あるいは、イチロー選手は自らの腕のようにバットを操ります。杖やバットという「道具」によって「身体が延長される」わけです。
この内容を踏まえて選択肢を見てください。②と④は視覚が、③は触覚が、それぞれ「道具」によって「延長」されていますね。それに対し、①は「人間の手ではできない」というのですから、「延長」とは言えません。よって、正解(適当でないもの)は①と判定できます。
与えられた文章を読み取り、それを踏まえて選択肢の正誤を吟味するというのは、国語(現代文)の問題そのものですね。共通テストでは、国語の読解力が他の科目でも求められているのです。そのぶんだけ、国語の重要性が高まったと言えるでしょう。共通テストに限らず、読解力はいろいろな場面で効いてきますので、強化に努めてください。
次回も、地歴・公民から新傾向の問題を紹介したいと思います。