前回は、試行調査における倫理の問題を取り上げて、国語以外の科目でも読解力が求められていることを述べました。新学習指導要領が「思考力・判断力・表現力」を掲げていることを受けて、知識系の地歴・公民でも、単純に知識だけでは解けない、資料文の読みと組み合わせた問題が出題されたのです。
 今回は日本史の試行調査で出された問題をご覧いただきます。従来のセンター試験ではなかった選択肢の仕掛けがあり、注意が必要です。

 田中さんは、西日本ではうどんなどの出汁に昆布が多く使われていることをテレビ番組で知った。番組では、昆布がとれない地域の消費量が多いことが紹介されていた。田中さんは、昆布について調べてみると次のような情報があり、その歴史的背景が近世にあると気付いた。

○昆布は、主に北海道で採取される海産物である。
○年間の昆布購入金額で上位に入る都市として、富山市・鹿児島市・神戸市・福井市・北九州市・大阪市のほか、那覇市がある。(総務庁家計調査より)
○中国では、高級食材や薬として昆布が消費された。

問 田中さんは、近世の流通に関して次のa~dの事項をまとめた。那覇市の昆布消費量が多いことの歴史的背景となる事項の組合せとして、最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。

a 近世には、北前船など日本海側の海上交通が整備され、蝦夷地と大坂を結ぶ流通が盛んになった。
b 近世には、諸藩で専売制の導入が進み、参勤交代の時に将軍への献上品とされた。
c 近世には、島津氏が琉球王国を支配し、中国への使節派遣と交易を継続させた。
d 近世には、出島を通じてオランダとつながる海外交通路が維持された。

① a-c  ② a-d  ③ b-c  ④ b-d

 沖縄県の那覇市で昆布消費量が多い歴史的背景が問われています。問題で与えられた情報を読むと、昆布は北海道で生産され、富山市・福井市など日本海側の都市が購入金額の上位です。ここには、近世において、蝦夷地で採れた昆布が、日本海を運航する北前船で運ばれたという歴史的背景があると考えられます。
 次に、那覇市に目を転じると、近世の琉球は、薩摩を通じて幕府に朝貢するとともに、中国(清)に対しても朝貢を行っていました。よって、昆布の入手ルートとして鹿児島経由と中国経由が考えられます。
 以上の考察に合致するのはaとcで、①が正解と判定できます。
 ここで注意してほしいのは、bもdも史実としては正しいということです。しかし、bの「参勤交代」は国元から江戸に赴くものですし、dの「オランダとつながる」という指摘も琉球への昆布の流通とは関係ありません。
 従来の地歴・公民のセンターの問題では、単純に知識で正誤が判定できました。しかし、共通テスト試行調査のこの問題では、知識に問題文の読みを組み合わせて答える必要があります。本問でも読解力が求められているということに注意してください。
 次回もこうした新傾向の問題を見ていきたいと思います。