前回の記事では、正誤問題は、「正しいもの」を選ぶ問題ではなく、「最も適当なもの」を選ぶ問題であるということを指摘しました。そして、「最も適当なもの」を選ぶのだからこそ、○×を決めつけようとはせず、判断がつかないときには△で保留するのが有効な戦略であると述べました。「最も適当なもの」を選ぶということを意識すれば、選択肢の見方・切り方も変わり、得点力もアップすること請け合いです。
 さて、「最も適当なもの」を選ぶという視点から取るべき戦略が、もう一つあります。これは、国語、とりわけ小説の問題でよく見られるものなので、ぜひ記憶に留めてください。その戦略とは、「当たり障りのない、無難なことを言っている選択肢を正解と判断する」というものです。
 前回の記事でも述べたように、文章の読みは多様です。〈絶対に正しい唯一の読み〉を決めることなどできません。ですから、特に小説の場合に顕著ですが、ちょっと踏み込んだ解釈を選択肢文の内容に盛むと、深読みしすぎで誤りと判断されるリスクがあります。そのため、正解の選択肢には本文から間違いなく読み取れる、無難なことしか書けなくなる。当たり障りのないことを述べている選択肢が正解である確率がきわめて高いのです。
 実は、共通テスト初年度にも、そのような問題が出題されました。まずは設問文をご覧ください。

問4 傍線部C「私はW君よりも、彼の妻君の眼を恐れた」とあるが、「私」が「妻君の眼」を気にするのはなぜか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

 問題の場面で、「私」と「妻君」とは対面してはいません。「私」が「妻君の眼」を想像して「恐れ」ているだけなのです。ですから、「妻君の眼」が具体的に描写されているわけではないので、本文の記述を手がかりに推論するほかにありません。
 「私」はお世話になった「W君」の見舞に早く行かなければと思っている。しかし、「常にW君から恩恵的債務を負うて居る」という「この債務に対する自意識」が、「W君の家の敷居を高く思わせ」ており、それが「彼の妻君の眼を恐れ」させた。本文から読み取れるのはその程度のことです。
 これを踏まえて選択肢をご覧ください。正誤にかかわる部分のみ抜粋します。

① ……妻君に自分の冷たさを責められるのではないかと悩んでいるから。
② ……転職後にさほど家計も潤わずW君を経済的に助けられないことを考えると……
③ ……妻君に偽善的な態度を指摘されるのではないかという怖さを感じているから。
④ ……妻君の前では卑屈にへりくだらねばならないことを疎ましくも感じているから。
⑤ ……自分だけが幸せになっているのに……

 最も無難なことを述べている①が正解です。特に③と比較してみてください。「偽善的な態度」というのは言い過ぎで、本文の読みを超えています。
 「当たり障りのないことしか言っていない選択肢」というのは、手応えがないため、見逃してしまう受験生が多いです。しかし、「最も適当なもの」を選ぶという戦略からは、それが正解になる。盲点になりやすいので、ぜひ覚えておいてください。
 次回は誤りの選択肢の作りかたについて解説します。