今回からは国語(小説)の分析です。試行調査では、同一作者による詩と随筆を組み合わせるなど、従来のセンター試験にはなかった出題がなされましたが、共通テスト初年度であった昨年度(2021)、そして2年目の今年度(2022)と、オーソドックスな小説が出されました。
おそらく来年度以降も小説からの出題となると考えられますが、大学入試センターが示している出題範囲は「文学的な文章」ですので、念のため試行調査の問題にあたっておくことをお奨めします。
さて、今年度の出典は黒井千次「庭の男」で、会社勤めを終えた初老の男性の心理を読み取る文章でした。センター試験以来、出題される作品は、夫に先立たれた妻の話であったり、戦前や終戦直後の話であったりと、青年期の受験生が容易に感情移入できない作品が選ばれてきました。それは、〈客観的な読み〉を要求するという出題の意図とも関係すると考えられます。主観的な読みを排し、本文の文言を根拠に登場人物の心情を客観的に捉えるトレーニングを、センターの過去問を通じて積み重ねることが肝心です。
そうした〈客観的な読み〉を試す問題のしかけが、センター試験の時から見られ、今年も出題されました。一部を抜粋してご覧いただきましょう。

〈問題〉
傍線部C「あ奴はあ奴でかなりの覚悟でことに臨んでいるのだ、と認めてやりたいような気分がよぎった」における「私」の心情の説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
(選択肢は末尾のみ)
① ……彼を見直したいような気持ちが心をかすめた。
② ……陰ながら応援したいような新たな感情が心をかすめた。
③ ……その心構えについては受け止めたいような思いが心をかすめた。
④ ……気が楽になるのではないかという思いが心をかすめた。
⑤ ……多少なら歩み寄ってもよいという考えが心をかすめた。

傍線部の「認めてやりたい」をそのまま言い換えているのは③「その心構えについては受け止めたい」のみで、その他の選択肢は余計な要素が加わっていて、「認めてやりたい」そのものの説明にはなっていません。よって、③が正解と判定できます。
③を読んで少し物足りないように感じた人もいるかもしれません。しかし、〈当たり障りのない内容しか言っていない選択肢が正解〉ということは、センター試験でも見られました。それは、本文から客観的に読み取れることだけを求めるという、出題者からのメッセージと受け止められるでしょう。
ですので、まずはセンターの過去問で〈客観的な読み〉をしっかりと身につけてください。そのうえで、共通テストでは新傾向型の問題も見られましたので、次回はそうした問題を見ていきましょう。
※試行調査および2021年度の問題については第1回~第10回、攻略法については第11回~第20回の記事で説明していますので、そちらをお読みください。