前回は、1つめの言葉の〈サイン〉として、「AではなくB」の形を、センターの過去問を題材に解説しました。これを最初に取り上げたのは、評論文で最も出てくる形でありながら、あまりに当たり前すぎて、流して読んでしまう受験生が多いからです。限られた時間内で高度な内容を読み取り、問題に答える必要があるのですから、線引き・マークをして目に見えるようにしておきましょう。
 「AではなくB」の形では、「ではなく」に波線を引き、AとBにあたる部分を、単語や短い語句の場合は丸囲み、長めの語句の場合は線引きしてください。そして、Bにあたる部分の右肩に+(プラス)のマークを付けましょう。「筆者の言いたいこと」という意味です。問題に絡むのは当然「筆者の言いたいこと」ですので、このようにマークしておくことで、解答の根拠とすべき箇所が一目で分かります。
(なお、Aにあたる部分にも、「言いたくないこと」という意味で-(マイナス)のマークを付けておくと良いです。誤りの選択肢を見極めるのに役立ちます。)
 さて、今回は「AではなくB」の応用形を紹介します。それは「AだけではなくB」という形です。打ち消しの表現に限定を表す副助詞の「だけ」が付くと、「Aはその通りだがBはなおさらそうだ」という意味になります。漢文では「累加形」と呼ばれるものですね。
 Aは「言いたくないこと」ではなくて「言いたいこと」です。ですから+マークをつけましょう。しかし、Bはそれ以上に「言いたいこと」ということですから、◎マークをつけて強調してください。「AではなくB」の形よりも、解答の根拠となる可能性が高まります。
 例文をご覧いただきましょう。センターで出題された冒頭の一文です。

 貨幣と言葉の間には、いくつかの比喩的アナロジーを挙げることができるだけでなく、その相同性の底にこそ文化の本質を明るみに出す鍵が潜んでいるように思われて興味深い。(丸山圭三郎『言葉と無意識』)

 本文の冒頭の一文というのは、問題を提起していたり、あるいは、あらかじめ結論を述べていたりと、本文全体の構成を示していますので、内容をていねいに読み取ることが肝心です。この例文では、「AだけではなくB」の形で、Aの部分で貨幣と言葉の間にはアナロジー(=類似性)が指摘できるとしたうえで、Bの部分で両者の相同性(=アナロジー)に文化の本質を探る鍵があると述べています。この後、「貨幣と言葉のアナロジー→文化の本質」という論の展開が予想できますね。そのように見当をつけて読み進めると、回り道することなく要点を的確に押さえることができます。
 言葉の〈サイン〉とは、要するに見当をつけるためのものと言うことができるでしょう。難解な内容でも、〈サイン〉は文章に分け入る手がかりとなります。しかも、それは特別なものではなく、日本語として自然な表現なのです。
 次回は、「AではなくB」と並んで評論文でよく出てくる〈サイン〉について解説します。

※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。