前回は、具体から抽象への転換点に置かれる〈幅広い指示語〉について解説しました。「このように」「そういう」などの〈幅の広い指示語〉は、段落の終わりや次の段落の冒頭に置かれ、そこまで述べてきた(具体的な内容)をまとめるとともに、新たな論の展開を示唆するものでした。〈幅広い指示語〉が出てきたら、いったんそこまでの内容を整理し、次の内容に備えるという、メリハリのある読み方を心がけてください。
 ところで、〈幅広い指示語〉は2種類に分けられます。1つめは、「このように」「こうして」など。これらは、「このように~である。」のように、文の形で前の内容をまとめます。もう1つは、「このような」「そういう」など。これらは、「このような○○は」のように、語や短い語句の形でまとめます。
 今回取り上げるのは後者です。「このような」「そういう」などの〈幅広い指示語〉でまとめられる語や短い語句は、そこまでの内容が凝縮されているわけですから、本文におけるキーワードと捉えられます。ですので、丸囲みをし、右肩に+マークをつけて、目に見えるようにしましょう。キーワードは解答に直結します。
 センターの過去問から例文をご覧ください。

 このような音楽の筆記性は、一九五〇年代の前衛音楽でほぼ飽和状態にまで達した――少なくとも、多くの音楽家たちはそう実感していた。そして、一九六〇年代後期には、そうした筆記性の飽和への反動として、非筆記的な即興演奏へと向かう動きが、突然、急進的な前衛音楽家たちの間に広がり始める。そうした即興演奏とは、正に、演奏する奏者同士の間で行われる音響を媒介とした口述的コミュニケーションを主眼とした音楽である。(近藤譲『「書くこと」の衰退』)

 「このような」「そうした」「そうした」と〈幅広い指示語〉が連発していますが、注目してほしいのは最後の「そうした」です。「即興演奏」というキーワードが示されています。楽譜を書いて作曲するという「筆記性」から、奏者同士のやり取りでその場で作り出す「即興演奏」への転換を、筆者は指摘しているわけです。
 この箇所を解答の根拠とした問題と、その正解の選択肢のみをご覧ください。

問 「音楽は、『無名性』を獲得するのだ」とあるが、それは具体的にどういうことか。最も適当なものを選べ。

① 音楽が、ある特定の人間の作品であることから解放され、演奏者たちが演奏の現場で共同して作り出す作品として存在するということ。

 楽譜に書かれた楽曲はベートーベンなど「特定の人間」が作曲者ですが、その場で作り出される即興演奏にそのような作曲者はいません。だから「無名性」と言えるのです。
 「キーワードを押さえながら読もう」とはよく言われることですが、キーワードもまた言葉の〈サイン〉を手がかりに見つけ出すことができます。内容の前に「型」から入るということを意識してください。

※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。