第49回 入試現代文入門・⑨定義の「とは」
前回は、〈幅広い指示語〉の中でも、「このような」「そういう」などの短い語句でまとめるものについて解説しました。まとめられたその短い語句には前で述べられていた内容が凝縮されているので、本文におけるキーワードと捉えられるということでしたね。キーワードもやみくもに探し出すのではなく、日本語の「型」に沿って見当をつけることが肝心です。
さて、今回は、これらの〈幅広い指示語〉と同様に、キーワードであることを示す言葉の〈サイン〉を紹介しましょう。それは、「~とは」です。
「~とは」という表現は、言葉の定義をするときに用いますね。評論文で定義をするというのは、筆者にとってそれくらい重要であるということを意味します。ですから、「~とは」の形で定義されている語句はキーワードであるとみなせます。その語句を丸囲みし、右肩に+マークを付けるとともに、「~とは」以降に書かれている部分にも線引きして、定義の内容をしっかりと押さえてください。
近年の入試問題から例文をご覧いただきましょう。
リスクとは、何事かを選択したときに、それに伴って生じると認知された――不確実な――損害のことなのである。それゆえ、地震や旱魃のような天災、突然外から襲ってくる敵、(民衆にとっての)暴政などは、リスクではない。それらは、自らの選択の帰結とは認識されていないからである。(大澤真幸『不可能性の時代』)
冒頭で「リスク」の語が定義されていますね。筆者によれば、リスクとは選択によって生じた不確実な存在のことです。ですから、自ら選んだわけではない天災や敵の襲来は、リスクには当たりませんね(民主主義の社会では自ら選んだ為政者による「暴政」はリスクですが、ここでは前近代の独裁政治の話をしています)。
「リスク」の定義を押さえていれば、次の問題はけっして難しくないでしょう。
問 「たとえば自然災害の脅威は、リスクではないのか? そうではない」とあるが、筆者がそう述べているのはなぜか。最も適切なものを選べ。
① 自然災害を最新の科学の力によって完全に予防しようとしても無駄なことであるから。
② 伝統社会では宗教的な観点から自然災害を自らへの罰として受け入れざるを得なかったから。
③ 仮に被害が甚大だったとしても自然災害は選択の結果として生じるものとはいえないから。
④ 高層建築が少ない伝統社会では自然災害が起こっても現代ほど大きな損害は生じなかったから。
「選択の結果として生じるものとはいえない」と、「リスク」の定義に即して理由を述べている③が、ズバリ正解と判定できますね。
「本文に解答の根拠を求める」と言っても、本文全体が根拠になるわけではありません。解答の根拠となるのは「筆者の言いたいこと」にあたる部分です。そして、それは言葉の〈サイン〉によって見つけ出すことができます。言葉の〈サイン〉に着目した読み方・解き方を、自分のものとしてください。
※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。