第41回の記事から、「筆者の言いたいこと」をつかむための言葉の〈サイン〉について解説してきました。言葉の〈サイン〉は日本語の自然な「型」に即したものですので、けっして裏切られません。本文の内容から入ろうとすると読み間違えますので、〈サイン〉から内容に分け入ることが肝心です。
 そして、〈サイン〉や「筆者の言いたいこと」には、マーク・線引きしていきましょう。とにかく、入試現代文は時間との戦いです。限られた試験時間の中で問題に答えるために、自分が読んだ痕跡を残しておいてください。自分で手を動かしてマーク・線引きすることで、「筆者の言いたいこと」が〈見える化〉していくというのは、とても楽しい作業ですよ。
 さて、今回は締めくくりとして、第44回の記事で取り上げた例文の続きに出てくる文章をご覧いただきましょう。貨幣と言葉にはアナロジー(相同性)があり、そこに文化の本質を探る鍵があるとのことでしたが、具体的にはどのようなことなのでしょうか?

 貨幣と言葉に共通して見出される本質としての関係とは、「〈物〉を生み出す関係」、つまりは存立的関係のことである。たとえば、〈自我と他者の関係〉がその典型と言えるであろう。あらかじめ確固たるアイデンティティを持った自我と他者が実体的に存在しているのではない。両者は関係によってはじめて生ずるのである。

 「~とは」「つまり」「たとえば」「ではない」と、これまで見てきた言葉の〈サイン〉が目白押しですね。それだけでもこの箇所が「筆者の言いたいこと」に関わると見当がつきます。
「貨幣と言葉に共通して見出される本質としての関係」とは、「存立的関係」とのことです。どういうことでしょうか? 筆者は自我と他者を例に説明しています。私は他者との関係において存在しているのであって、先に私が存在しているわけではありません。同様に、貨幣の価値は商品との関係によって決まりますし、言葉の意味も他の言葉との関係から決まります。それが「存立的関係」ということであって、筆者はそこに「(文化の)本質としての関係」を見出しているわけです。
 以上の内容を線引き・マークして押さえれば、センターで出題された次の問題の正解の選択肢を選ぶことは難しくありません。

問 「二つの本質」とあるが、それはどのようなことか、その説明として最も適当なものを選べ。

① 言葉も貨幣も、価値は〈関係〉から成り立っており、しかもその関係は存立的関係をもって本質とするということ。

 「存立的関係」というキーワードが含まれていますので、ズバリ選べるはずです。
 入試現代文入門として10回にわたってお話した内容は、本当に基礎の基礎ですが、頂上につながる基礎でもあります。言葉の〈サイン〉を武器に、ぜひ現代文の頂点を極めてください。

※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。