前回は、センター過去問の分析を踏まえて、傍線部の前後に解答の根拠が集中していること、だから、まずは段落の読みを徹底することが大切であることを、お話しました。「制限時間との戦い」ということも考えたとき、傍線部や空欄が出てくるたびに設問を確認し、読みながら解く姿勢を身につけてください。
 さて、前回の分析は評論でしたが、小説では少し違う結果が出ています。それは、傍線部自体の言い換えが解答の根拠となる問題の割合が、全体の4分の1近くあるということです。
 小説では、登場人物の心情を描くのに、「嬉しかった」「悲しかった」などと直接には表現せず、「顔から火が出た」のように比喩表現を用いたり、「涙はいつしか乾いていた」のように婉曲的な言い回しをしたりします。それゆえ、問題ではそのような箇所に傍線が惹かれるため、傍線部自体が解答の根拠となるのです。
 もちろん、評論でも傍線部の読みは大切、というよりも、それなしには始まりませんが、小説の場合には特に、傍線部内の語句を丁寧に押さえ、選択肢文との対応を意識してください。
 センターの過去問から例題をご覧いただきましょう。

〈本文〉
 ――その瞬間、彼の母の顔はやさしく微笑んだように見えた。それから彼女は急に彼の上にのしかかるようにしながら、彼の唇の上にそっと接吻をした。彼はその接吻が気味わるくひやりとするだろうと思っていたのに、その唇はまるで生きているように温かかった。――彼は愛情と恐怖とのへんな具合に混ざり合った、世にも不思議な恍惚を感じだしていた。

 「彼」は友達と入りこんだ屋根裏の暗がりの中で石膏に彫られた女性の顔を発見しました。「彼」はその顔が亡くなった母に見えました。その時の「彼」の心情を述べた箇所です。ここでは、「恍惚」という語に着目して選択肢の文末の部分を見てください。

〈問題〉
 「彼は愛情と恐怖とのへんな具合に混ざり合った、世にも不思議な恍惚を感じだしていた」とあるが、このときの心の動きの説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① ……愛情がとめどなくあふれてきた。
② ……なつかしさのあまりうっとりとなった。
③ ……官能をともなった喜びにわれをわすれた。
④ ……たとえようのない興奮を覚えた。
⑤ ……超自然の力に驚き感動した。

 「恍惚」とは、心を奪われてうっとりするさま・意識がもうろうとなるさまのことです。この語の意味に合致するのは、②と③ですね。しかし、恐怖感があるのに②のように「なつかしさ」はおかしいでしょう。③のように、愛情と恐怖がまぜこぜになり、「官能をともなった喜び」を覚えたのです。よって、正解は③と確定できます。
 その他の①・④・⑤は「恍惚」の意味を踏まえていないことを確認してください。
 実は、この例題には小説を読むうえでの重要な視点が隠されているのですが、それは次回に解説したいと思います。

※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。