前回、前々回と小説の解き方についてお話してきました。本文の読みが問われるという点では、評論も小説も何も変わりません。しかし、筆者の主張がダイレクトに述べられている評論と違い、小説では登場人物の心情が複雑に表現されています。そうしたところから、傍線部自体が解答の根拠になったり、アンビバレントな心情が解答に直結したりと、小説特有の解き方が出てきますので、実戦で活かしてください。
 さて、今回も小説特有の選択肢の作りについてお話したいと思います。皆さんは、小説の問題を解き終わったあと、答え合わせをしていて、「この選択肢は、なんか物足りなくてバツにしたのだけれども、正解だった」という経験はありませんか? 他の選択肢の方が、踏み込んだ内容のように思え、この程度の内容で良いのか疑問に感じる。しかし、小説では、そうした選択肢が正解である場合が多々あります。
 「小説の問題では、当たりさわりのないことしか言っていない選択肢が、正解である確率が高い」というのは、特に共通テスト小説を解くうえで大事な視点です。そこには小説特有の事情があります。評論の場合は、筆者の主張というのは誰でも同じように読み取ることが可能です。しかし、小説の場合には、一つの表現は多様な解釈に対して開かれています。ここはこのように読み取ることができる。この場面での登場人物の心情は以上のように推論できる。いくらでも解釈することができるでしょう。
 しかし、入試問題である以上、それらの解釈をすべて問うことはできません。また、ある解釈に偏った内容の選択肢を正解にした場合、違う解釈もあるではないかという批判に晒されることになるでしょう。その結果、言葉の意味を表面的になぞっただけのような、少し物足りない選択肢が正解になる確率が高いのです。
 例えば、今年度の共通テスト小説でも次のような問題が出題されました。
〈問題〉
 傍線部C「私はW君よりも、彼の妻君の眼を恐れた」とあるが、「私」が「妻君の眼」を気にするのはなぜか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

 本文には、「○○さんて方は随分薄情な方ね」という、「私」を責める「妻君」の言葉があります。長らく見舞いにも訪れない薄情さを責められるのではないかと、「私」は恐れていたのです。
 選択肢はポイントだけご覧いただきましょう。
① ……自分の冷たさを責められるのではないかと悩んでいるから。
② ……妻君には申し訳ないことをしていると感じるから。
③ ……妻君に偽善的な態度を指摘されるのではないかという怖さを感じているから。
④ ……妻君の前では~疎ましくも感じているから。
⑤ ……苦労する妻君には顔を合わせられないと悩んでいるから。

 「薄情」を「冷たさ」と言い換えているだけの①が正解です。他の選択肢は余計な要素を付け加えてしまっています。「本当にこの選択肢で良いのか?」と頼りなさを感じるかもしれませんが、小説における選択肢の見方としてぜひ頭に入れておいてください。

※この記事の内容について、詳しくは『新ゴロゴ現代文』〈基礎~必修編〉〈共通テスト編〉で解説しています。