『新ゴロゴ現代文〈漢字〉』が刊行されました。受験生の皆さんは各自、漢字学習に励んでいることとは思いますが、なかなか成果が出ない、何から始めたら良いか分からない、といった悩みを抱えている人も多いでしょう。そこで、漢字の学習法について、なぜ漢字の学習が必要なのかということからお話したいと思います。
「漢字の読み書きは現代文学習の基本である」とよく言われますね。それは具体的にどのような意味なのでしょうか? そこには二つの意味があります。
 一つめの意味は、入試国語(現代文)では、東大から共通テストまで、必ずと言ってよいほど漢字問題が出題される、ということです。たしかに、配点は1~2点です。全体に占める割合は大きくないでしょう。しかし、その1~2点で合否が決まるというのが入試の厳しい世界です。
記述問題や数学の問題は、どんなに勉強していても、試験会場のその場で分からなければできません。しかし、漢字問題は、毎日のトレーニングの積み重ねで確実に得点することができます。確実に取れるものを取っていく。これは、受験戦略上で大切なことですし、得点が計算できるというのは、安心感を与えます。「漢字がニガテ」というのは、「私は努力が嫌いです」と言っているのと同じです。1点に泣かないために、毎日着実にこなしていきましょう。
 次に、二つめの意味は、漢字の理解が読解力に直結しているということです。日本語の意味は、表意文字である漢字がほとんどの部分を受け持っています。ですから、漢字の意味が分からなければ、単語の意味も分からないし、当然、文章の意味も理解できません。
 例えば、これまでの記事でもたびたび出てきた、「抽象」という言葉の意味をきちんと説明できますか? 〈具体的なものから共通する要素を取り出して、頭の中でまとめること〉という意味でしたね。具体的なバナナ・リンゴ・メロンから共通する要素を取り出した「抽象」は〈果物〉、具体的なイワシ・サバ・タイから共通する要素を取り出した「抽象」は〈魚〉です。評論文で頻出の重要語である「抽象」の意味が分からなければ、文章の内容を理解することはできません。
 では、「抽象」はなぜそのような意味なのでしょうか? それは、漢字の意味から説明することができます。まず、「抽」は〈取り出す・引き出す〉の意。「抽選」と言いますね。次に、「象」は〈姿・形〉の意。それで、この二つの漢字を組みわせて、「抽象」の意味が生じるのです。漢字の意味が分かることで、語の意味が分かり、それが本文の読解につながる。「漢字の理解が読解力に直結して」います。
 以上のとおり、漢字学習には二つの意味があります。そして、『新ゴロゴ現代文 漢字』は、この二つの意味を念頭において作られました。そこで、次回の記事では、具体的な漢字の勉強のしかたについて解説しながら、『新ゴロゴ現代文〈漢字〉』の活用法をお話したいと思います。