前回は、現代文の選択肢の正誤の判定のしかたとして、因果関係に着目する視点についてお話しました。「によって」「ことで」といった因果関係を示す表現がある場合、「本文に書かれている内容か」だけでなく、「因果関係が成り立つか」ということを基準に正誤を判定するようにしてください。
 さて、今回は、小説特有の読み方・解き方についてお話したいと思います。評論文が筆者の「主張」を説明する文章であるのに対し、小説は登場人物の「心情」を表現した文章です。しかも、その「心情」というのは、嬉しい・悲しいといった単純なものではありません。友人の成功を祝福しつつもそこに嫉妬の感情が含まれていたり、親を頼る気持ちと反発する気持ちが同居していたり、「心情」とは一筋縄ではいかない複雑なものであり、そうした「心情」の機微こそが小説の面白さでもあります。そして、小説の問題で問われるのもそうした「心情」です。
 ここで、記事のタイトルにも出てくる「アンビバレント」という言葉について説明したいと思います。「アンビバレント」とは、ある一つの物事に対して相反する二つの感情をいだくことで、日本語にすると「両義的」です。小説では「アンビバレントな心情」こそが読ませどころであり、解答にも直結します。
 例題として、2021年度第2問問2をご覧ください。

〈例題〉
 傍線部A「擽ぐられるような思」とあるが、それはどのような気持ちか。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。

① 自分たちの結婚に際して羽織を新調したと思い込んで発言している妻に対する、笑い出したいような気持ち。
② 上等な羽織を持っていることを自慢に思いつつ、妻に事実を知られた場合を想像して、不安になっている気持ち。
③ 妻に羽織をほめられたうれしさと、本当のことを告げていない後ろめたさとが入り混じった、落ち着かない気持ち。
④ 妻が自分の服装に関心を寄せてくれることをうれしく感じつつも、羽織だけほめることを物足りなく思う気持ち。
⑤ 羽織はW君からもらったものだと妻に打ち明けてみたい衝動と、自分を侮っている妻への不満とがせめぎ合う気持ち。

「擽ぐられるような思」とは、くすぐられて何だか落ち着かない感じのことですね。本文では、私は妻から羽織を褒められて嬉しかったのだけれども、それがもらいものであることを妻には告げていなかったので、気恥ずかしくてもぞもぞしている様子が描かれていました。③を見ると、「うれしさ」「後ろめたさ」という相反する2つの感情が含まれていますね。「落ち着かない気持ち」も、「擽ぐられるような思」の説明としてピッタリで、正解と判定できます。
 小説の問題に取り組む際には、「アンビバレントな心情」という視点をもつようにしてください。
 次回からは古典の問題の傾向と対策についてお話していきます。