前回は、今年度の共通テスト国語の評論(第2問)で出題された問題を検討しながら、文と文のつながりという文章読解の基本が問われているということについてお話しました。思考力や応用力を問う新傾向型の問題といえども、基本事項の理解を前提としているということは、言うまでもありません。センター試験の過去問を利用して、基礎力の養成に努めてください。
 さて、文章読解の基本が問われるということでは、小説(第2問)でも同様です。評論が筆者の主張を読み取る文章であるのに対し、小説では登場人物の心情を読み取ることが求められます。しかし、心情といっても、登場人物が何を思い何を考えていたかを、勝手に想像することは許されません。
 筆者は、言葉・振る舞い・表情などから、登場人物の心情を描き出します。ですから、そうした要素を踏まえて、確かな根拠をもって心情を推測する必要があるのです。小説は、〈主観的な読み〉を排除した、〈客観的な読み〉が求められると言えるでしょう。
 今年度の問題をご覧いただきます。

〈本文〉
 ……町角に私の作品が並べられれば、道行人々は皆立ち止まって、微笑みながら眺めて呉れるにちがいない。そう私は信じた。だから之を提出するにあたっても、私はすこしは晴れがましい気持でもあったのである。
 会長も臨席した編輯会議の席上で、しかし私の下書きは散々の悪評であった。悪評であるというより、てんで問題にされなかったのである。
「これは一体どういうつもりなのかね」
 私の下書きを一枚一枚見ながら、会長はがらがらした声で私に言った。
「こんなものを街頭展に出して、一体何のためになると思うんだね」
「そ、それはです」とA私はあわてて説明した。「只今は食糧事情がわるくて、皆意気が衰え、夢を失っていると思うんです。だからせめてたのしい夢を見せてやりたい、とこう考えたものですから――」

 「私」は自分の作品に自信満々だったわけですね。しかし、会長から頭ごなしに否定された。だから、あわてて趣旨を説明したということです。
 問題は正解の選択肢のみをご覧ください。

〈問題〉
問1 傍線部A「私はあわてて説明した」とあるが、このときの「私」の様子の説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 都民が夢をもてるような都市構想なら広く受け入れられると自信をもって提出しただけに、構想の趣旨を会長から問いただされたことに戸惑い、理解を得ようとしている。

 「自信をもって提出」「会長から問いただされたことに戸惑い」と、本文から読み取れる内容が無駄なく書かれていますね。
 実は、2017年・2018年に行われた試行調査では、視点と主題の異なる2つの作品を読み比べる問題や、同一の書き手による詩と組み合わせた問題が出題されました。ですから、現行どおりの小説の問題が今後も続くとは限りません。しかし、随筆にしろ詩にしろ、〈客観的な読み〉が求められるということには、変わりはないでしょう。ですから、小説も評論と同様、客観的な描写を踏まえて登場人物の心情を読み取るという読解の基本を、しっかりと養っていく必要があります。
 次回は、古典の問題における基本について考察します。