第100回 入試現代文の解法・③
前回は、入試現代文に取り組むうえで、「出題者の視点」が大切であることをお話しました。出題者には、客観的な読みに基づく問題の作成が求められます。だからこそ、受験生にも主観的な読みの排除が求められるのです。「日本語の運用のしかた」に基づいた「攻略アイテム10」を活用して手を動かし、解答の明確な根拠を見つけ出してください。
さて、今回は指示語に話を戻しましょう。「傍線部中、あるいは傍線部の直前に指示語がある場合、まずは指示語問題として解く」という鉄則は、当たり前に思えますが、その当たり前を確実にこなすことで、得点力が飛躍的にupします。
次の例題をご覧ください。
〈例題〉
身体の暗がりからたちあがった言葉は、人間と人間、人間と世界とをひとつに結びつける見えない円環である。あるいはそうした円環のはじまりである。それは表象としての言葉、概念としての言葉であるよりも、まず呼びかける言葉であるだろう。もともと身体の暗がりのなかに包みこまれていた呼びかける言葉は、外の世界に姿をあらわすときには慎ましさと優しさをともなっている。呼びかける言葉の優しさと慎ましさは、私と私をとりまく世界を大きな編物のように編みあげていくかくれた力である。fそうした言葉の力に目をひらかれたとき、私たちは言葉が生まれでる根もとのところに立ちかえるきっかけをつかんだことになるのである。
問 傍線部f「そうした言葉の力」とはどのようなことか。もっとも適当なものを次の1~5の中から一つ選べ。
1 言葉は、円環の出発が認められるため、優しく慎ましい力が保証されているということ
2 言葉は、呼びかける力をもつことで、表象や概念としての言葉を否定できるということ
3 言葉は、優しく慎ましい性質によって、編物のような潜在的な力を備えているということ
4 言葉は、その本来の性質として、人間の連帯を可能にする柔軟な力を秘めているということ
5 言葉は、その発生の根源をたどっていけば、優しさと慎ましさの能力を発見できるということ
傍線部fにある指示語の「そうした」が前の内容を受けていますので、冒頭から丁寧に読んでいきましょう。筆者は、言葉とは「人間と人間、人間と世界とをひとつに結びつける見えない円環」だと言います。「身体の暗がり」から外の世界に向かって「呼びかける」のです。それは、「世界を大きな編物のように編みあげていくかくれた力」を持ちます。筆者が、言葉を私と外の世界を結びつけるものとして捉えていることが分かりますね。
選択肢を見ると、この内容をズバリ言っているのは、「人間の連帯を可能にする柔軟な力」とある2しかありません。他の選択肢は、「円環」「優しさ」など本文にある言葉を用いていますが、肝心の「結びつける」という要素が欠けています。
さて、この例題に出てくる「こうした」は、ただの指示語ではなく、〈幅広い指示語〉と呼ばれるものです。〈幅広い指示語〉がとりわけ重要であることは、すでに第97回の記事で述べていました。次回はこの〈幅広い指示語〉について解説します。