第103回 入試現代文の解法・⑥「AではなくB」構文は日本語のリズム
前回は、〈幅広い指示語〉が解答に絡む東京大学の問題を解説しました。東大であろうと、共通テストであろうと、読み方・解き方は変わりません。それは、現代文が「日本語の運用のしかた」を問う科目だからです。そして、その「日本語の運用のしかた」に即した「攻略アイテム10」は、どんな問題にも通用します。「攻略アイテム10」を用いて、本文にマーク・線引きが確実にできるようにしてください。
さて、今回は、〈幅広い指示語〉と並んで解答に絡む確率の高い、「AではなくB」の構文について解説します。皆さんも、相手に何かを主張したいときに、「Aではないんだ。Bなんだ」というような言い方をすると思います。先に対立する要素(A)を否定して、その後から言いたいこと(B)を述べて強調するというのは、日本語のひとつのリズムです。現代文(評論文)でもそれは同じですので、「アイテム5・重要接続語・文末表現マーク」を用いて「ではなく」(言い切りの形の場合は「ではない」)に波線を引き、Bにプラスの内容(筆者の主張)のマークをしてください。
多少応用した形ですが次の例題をご覧ください。
〈例題〉
私の考えでは、芸術というものは、ある時理論を学べば、あとは、芸術家の個性にしたがって創作すればよいというものでもなければ、どだいそんなことは、できないものだと思う。芸術家は、理論を習うよりまえに、幼い時、もっと根本的な体験をしており、そのあとで、いつか、ある芸術作品に触発されて、芸術家の魂を目覚まされ、それでそれを手本にとり、理論を学びながら、最初の試みにとりかかるものだと思う。そうして、彼の成長とか円熟とかいうものは、根本的な体験につながる表現にだんだん迫ってゆくという順序を踏むのではないか。
問 筆者は下線部「芸術家の個性にしたがって創作すればよい」ということを否定しているが、それでは真の「創作」とはどのようなものだと考えているのか、その説明として最も適切なものを次のア~オから選べ。
ア 理論によって構築された表現。
イ 幼児の根本的な体験につながる表現。
ウ 西洋の大芸術との同化を目指した表現。
エ 文明体系の違いを反映した独自の表現。
オ ある芸術作品に触発されてそれに近づこうとした表現。
「でもなければ」「できない」という表現で、下線部を含む一文の内容が否定されていますね。理論と芸術家の個性だけでは芸術の創作はできないのだと。では、筆者は何が必要かと考えているのか。続く一文に「理論を習うよりまえに、幼い時、もっと根本的な体験をしており」とあります。大前提として「根本的な体験」があるというのです。選択肢を見ると、この「根本的な体験」が含まれるイがズバリ正解と判定できます。
次回は、「AではなくB」構文を解答に活かした記述問題にチャレンジしてみましょう。