第104回 入試現代文の解法・⑦「AではなくB」構文を活かして記述問題を攻略する
前回は、〈幅広い指示語〉と並んで解答に絡む確率の高い「AではなくB」構文について解説しました。対立する内容をいったん否定してから、言いたいこと(主張)を述べるというのは、日本語のひとつのリズムです。「ではなく」の前後で、プラス・マイナスの価値観をしっかり判断してください。
今回は、「AではなくB」構文を活用して記述問題に挑戦してみましょう。「ではなく」の後を筆者の主張として押さえれば、そこが解答の要素となります。
〈例題〉
身体は皮膚に包まれているこの肉の塊のことだ、と、これもだれもが自明のことのように言う。が、これもどうもあやしい。たとえば怪我をして、一時期杖をついて歩かなければならなくなったとき、持ちなれぬ杖の把手(とって)の感触がはじめは気になってしょうがない。が、持ちなれてくると、掌の感覚は掌と把手との接触点から杖の先に延びて、杖の先で地面の形状や固さを触知している。感覚の起こる場所が掌から杖の先まで延びたのだ。
問 下線部「感覚の起こる場所が掌から杖の先まで延びたのだ」とあるが、このようなことが生ずるのはなぜか、その理由を、筆者の論旨にしたがって60字程度で説明せよ。
たとえば、靴を歩いているときにも、地面に触れているのは靴底ですが、足の裏でアスファルトの硬さを感じますよね。同じことを、杖を持ったときにも感じます。杖の先まで感覚が延びたように感じるのはなぜでしょうか。本文には、下線部のあとに具体例を挟んで次のようにありました。
〈例題・続き〉
このようにわたしたちの身体の限界は、その物体としての身体の表面にあるわけではない。わたしたちの身体は、その皮膚を超えて伸びたり縮んだりする。わたしたちの気分が縮こまっているときには、わたしたちの身体的存在はぐっと収縮し、じぶんの肌ですら外部のように感じられる。身体空間は物体としての身体が占めるのと同じ空間を構成するわけではないのだ。
具体例を受けて、〈幅広い指示語〉の「このように」でまとめています。しかも、その一文の文末には「ではない」とあります。「攻略アイテム10」が重なる部分は間違いなく解答に絡みますので、慎重に読んでください。最後の一文にも「ではない」とありますね。否定されているのは「身体の表面」であり「物体としての身体」です。「身体空間」が「物体としての身体」と一致しているならば、杖をもったときに感覚が起こる場所は掌のはずです。しかし、そうならずに杖の先まで延びる。それは、「わたしたちの身体は、その皮膚を超えて伸びたり縮んだりする」からです。「ではない」の後に書かれているこの一文を中心に据えれば、解答は完成します。
〈解答例〉
身体と周囲の世界との境界は、物体としての身体の表面とは一致せず、感覚のありようによって拡大したり縮小したりするものだから。
次回は、現代文を読んでいくうえで最も重要と言える、具体例と主張の関係についてお話したいと思います。