前回は、要約・言い換えの接続語である「言い換えれば」に注目して解くセンター試験の問題を取り上げました。傍線部に続く「言い換えれば」の後の内容を踏まえている選択肢は、1つしかありませんでしたね。このようにズバリ正解が決まる場合は少ないですが、2択や3択に絞ることはできます。要約・言い換えの接続語の前後は相互ヒントの関係にありますので、解答に活かしてください。
 今回は、記述問題に挑戦していただきます。といっても、考え方は全く同じです。「つまり」「言い換えれば」の前後の内容を答案に盛り込んでいきましょう。

〈例題〉
ふつう死は、心臓が停止して血流がとだえ、それに続く全身の生命活動の停止として起こる。ところが脳が先に機能停止におちいることがある。この場合、中枢神経をまとめる脳の死によって全身もやがて死ぬことになるが、人工呼吸器の力でしばらくの間は(そして現在ではかなり長期にわたって)脳死状態の身体を「生かして」おくことができる。つまり死を抑止するテクノロジーの介入によって、生を手放しながらなお死を中断された、ある種の中間的身体が作り出されるのである。ア脳死が心臓死と決定的に違うのは、死が全身に及ぶプロセスや、そのタイム・ラグのためではなく、このきわめて現代的な「死」が、上に述べた「中間的身体」を生み出すからである。脳の機能を失ったこの身体は、もはや人格としての発現をいっさい欠いて、いわば誰でもない身体として横たわっている。

問 「脳死が心臓死と決定的に違う」(傍線部ア)理由を、筆者の論旨にしたがって説明せよ。(60字程度)

 脳死について論じた文章ですね。まず、「つまり」で始まる傍線部アの前の一文に注目しましょう。脳死の段階では、まだ心臓は動いています。それゆえ、その状態を、「生を手放しながらなお死を中断された、ある種の中間的身体が作り出される」と述べているわけです。
 しかし、「中間的身体」では意味が分かりません。そこで、傍線部の後を読むと、「いわば」を挟む形で、「脳の機能を失ったこの身体は、もはや人格としての発現をいっさい欠いて、いわば誰でもない身体として横たわっている」とあります。脳死の状態では自己の意識がありません。まさに「人格としての発現をいっさい欠いて」おり、さらにそれを「誰でもない身体」と表現しています。この点を押さえて解答をまとめれば良いでしょう。

〈解答例〉
心臓死が全身的な生命活動の停止につながるのに対して、脳死は人格の発現を欠くが身体的な死には至らない状態を作り出すから。(59字)

 もう一度おさらいをすると、要約・言い換えの接続語の前後は、具体→抽象という順の場合と、抽象→具体という順の場合があります。具体と抽象の関係を見極めて、筆者の主張である抽象の部分の内容を解答に活かしてください。
 次回からは言葉の定義をする表現について解説します。