第118回 現代文テーマの学習法②・言語論を知ることで言葉に対する理解が深まる。
前回は、入試現代文における頻出テーマの学習の必要性についてお話しました。評論文で論じられている内容というのは、私たちが日常で友人や家族と話すこととは違います。「身体」「日本(文化)」など、くり返し出題されている頻出テーマに関する知識を蓄えることで、どんな文章であってもムラなく読みこなせる力をつけてください。
さて、今回と次回は、頻出テーマの中でも特に重要な、「言語論」と「近代」について、その大きな枠組みについてお話したいと思います。この2つのテーマを選ぶのは、これらがその他のテーマでも下敷きとなっているような、より本質的な内容が論じられているからです。『新ゴロゴ現代文〈語彙・テーマ〉』においても、第2章の基本テーマ10で紙幅を費やして説明していますので、理解を深めてください。
今回解説するのは「言語論」です。私たちはどのようにして言葉を覚えてきたでしょうか? 赤ん坊に対して、お母さんが家で飼っているネコを指差して、「ニャンニャンだよ」と教えたとします。そのとき、赤ん坊は指差された対象だけが「ニャンニャン」と呼ばれるものだと考えるだけで、他に「ニャンニャン」がいることを知りません。「ニャンニャン」という名前と対象とが一対一で対応する、記号に留まっている段階です。
その後、ベビーカーに乗せられてお散歩に行った際、お母さんが壁の上を歩くネコを指差して「ニャンニャンだね」と言い、屋根の上でお昼寝するネコも指差して「あそこにもニャンニャンがいるよ」と言ったとしましょう。すると、赤ん坊は少しの戸惑いを覚えたのちに、この世界には「ニャンニャン」とひとまとまりで呼ばれるグループがあることを理解します。
このとき、赤ん坊が頭の中で行っているのは、家の中で見た対象、そしてお散歩の途中で見た2つの対象の共通点を取り出すこと、つまり「抽象化」です。そして、その共通するものが「ニャンニャン」という名で呼ばれることを理解するのです。そう考えると、「ニャンニャン」という言葉じたいを教えたのはお母さんであっても、「ニャンニャン」の意味するところは赤ん坊自身の力で理解したと言えます。私たちに等しく具わる、物事を認識する能力のことを「理性」といいます。つまり、言葉とは私たちの理性によって生み出されたものに他ならないのです。実際、ギリシア語では「言葉」も「理性」も同じく「ロゴス」の語で表します。
このように、言語論の大枠を知ることで、言葉に対する理解はぐっと深まります。そして、それは読解力にもつながっていくでしょう。
次回は、もう一つの重要テーマである「近代」についてお話したいと思います。