前回は、「Aとは」「Aというのは」という定義の表現について説明しました。定義をす
るということは、議論において必要であるということですから、本文におけるキーワード
を示していると捉えることができます。定義されているAの語をマルで囲むとともに、そ
の後の説明の部分を線引きして押さえましょう。
 さて、定義の表現で示されるキーワードは、もちろん解答にも直結します。次のセンタ
ー試験の問題をご覧ください。
〈例題〉
 「レジリエンス」とは、近年、さまざまな領域で言及されるようになった注目すべき概
念である。この言葉は、「攪乱を吸収し、基本的な機能と構造を保持し続けるシステムの
能力」を意味する。
 レジリエンスの概念をもう少し詳しく説明しよう。レジリエンスは、もともとは物性科
学のなかで物質が元の形状に戻る「弾性」のことを意味する。六〇年代になると生態学や
自然保護運動の文脈で用いられるようになった。そこでは、生態系が変動と変化に対して
自己を維持する過程という意味で使われた。しかし、ここで言う「自己の維持」とは単な
る物理的な弾力のことではなく、環境の変化に対して動的に応じていく適応能力のことで
ある。
 レジリエンスは、回復力(復元力)、あるいはサステナビリティと類似の意味合いをも
つが、Aそこにある微妙な意味の違いに注目しなければならない。
 冒頭の一文で「『レジリエンス』とは」とあり、次の一文で「攪乱を吸収し、基本的な
機能と構造を保持し続けるシステムの能力」とカギカッコ付きで定義されていますね。続
く段落ではさらに詳しく説明されていますが、ここでは「ではなく」に注目しましょう
。「AではなくB構文」ですので、「ではなく」の後の「環境の変化に対して動的に応じて
いく適応能力」を押さえます。環境の変化に対応しながら、基本的な機能と構造を維持し
ていく能力のことを、レジリエンスと言っているわけです。
 問題は、サステナビリティとの違いを問うものでした。
〈問題〉
 傍線部A「そこにある微妙な意味の違い」とあるが、どのような違いか。その説明として
最も適当なものを次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① ……レジリエンスは弾性の法則によって本来の形状に戻るという違い。
② ……レジリエンスは環境の変化に応じて自らの姿を変えていくことを目指すという違
い。
③ ……レジリエンスは適度な失敗を繰り返すことで自らの姿を変えていくという違い。
④ ……レジリエンスは均衡を調整する動的過程として自然を捉えるという違い。
⑤ ……レジリエンスは自己を動的な状態に置いておくこと自体を目的とするという違い

 選択肢文前半のサステナビリティについての記述は省略しましたが、レジリエンスにつ
いての記述を見るだけでも、「環境の変化に応じて自らの姿を変えていく」とある②がズ
バリ正解と判定できますね。
 本問は、「Aとは~構文」と「AではなくB構文」という2つの解法公式の組み合わせで
解く問題でした。たいていの問題は1つでは解答を決めきれませんので、いくつもの解法
公式を適用するという姿勢で臨んでください。

 次回は、定義の表現に着目して解く記述問題を取り上げます。