第111回 入試現代文の解法・⑬「とは」で定義された内容を答案に活かす
前回は、「Aとは~構文」と「AではなくB構文」という2つの解法公式の組み合わせで解く、センター試験の問題を紹介しました。1つの解答公式だけで答えが決まるということは稀ですので、複数の公式を適用するという意識をつねにもってください。
さて、今回は「Aとは~構文」を活かして答案を作成する記述問題を取り上げます。定義の表現は当然、記述問題でも解答の要素となりますので、キーワードとともに、定義の内容を答案に盛り込むようにしてください。
〈例題〉
河川の経験は、流れる水と水のさまざまな様態の体験である。と同時に、ア身体的移動のなかでの風景体験である。河川の整備と河川を活かした都市の再構築ということであれば、流れる水の知覚とそこを移動する身体に出現する風景の多様な経験を可能にするような整備が必要だということである。
(中略)
河川の体験とは、河川空間での自己の身体意識である。風景とはじつはそれぞれの身体に出現する空間の表情にほかならないからである。風景の意味はひとそれぞれに異なっていている。河川の空間が豊かな空間であるということは、何かが豊かに造られているから豊かだ、というわけではない。とりわけて何もつくられていなくても、たとえば、ただ川に沿って道があり、川辺には草が生えていて、水鳥が遊び、魚が跳ねる、ということであっても、そのような風景の知覚がひとそれぞれに多様な経験を与える。体験の多様性の可能性が空間の豊かさである。
問 「身体的移動のなかでの風景体験」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)
(中略)の後で、「河川の体験とは」「風景とは」と2つの言葉が定義されていることに注目しましょう。特に前者は、傍線部アの主語が「河川の経験」であり、傍線部中にも「体験」とあるので、絶対に見落とせません。
また、後者については、筆者が「風景」という言葉に独自の意味を込めていることに注目する必要があります。ふつう「風景」と言えば、見て楽しむだけのものです。しかし、筆者はそのように受け身的には捉えていません。河川に沿って歩き、水鳥や魚と戯れる。そのようにして身体で感じるものを「風景」と呼んでいるのです。
こうした「風景」の捉え方は、「河川の体験とは、河川空間での自己の身体意識である」という定義にも関係していますね。河川の体験とは、まさに身体で体験するものであり、それゆえ、意識は自己の身体へと向かっていきます。
〈解答例〉
河川に沿って歩き、さまざまな空間の表情を感じ取りながら、それを知覚している自己の移動する身体もまた意識されるということ。
2つの言葉の定義が答案に活かされていることを確認してください。
次回は、ここまで見てきた「攻略アイテム10」を、解法公式という形で整理したいと思います。